私のライティングの専門分野の1つが「育児・教育」で、記事のテーマは、産後の抜け毛~「赤ちゃん時代の記憶っていつから?」~中学受験~就活まで多岐にわたりますが、そういったいわゆる「普通の」育児教育の話題が遠い世界のように感じられる日々を生きている子どもたちがいます。
それが、虐待に遭っている子どもたち。
2021年11月、「子ども虐待防止策イベント in 東京 2021」の運営スタッフ様から連絡をいただき、各地で行われている講演会のうち、東京会場(11/21)にオンラインで参加させていただきました。
イベント概要
当日は、会場参加とYoutube配信が行われ、虐待経験当事者の皆様から体験談を聞かせていただくパートと、主催者の今一生(こん いっしょう)さんのレクチャー、意見交換会の3部構成で進行しました。
1)虐待経験者の手紙
まず冒頭、実際に虐待の中で生きてきた4人の女性が自らの体験と思いを手紙に記し、その場で朗読されました。
それは、「辛い経験」などではとうてい言い表せないほどの内容でした。
私の子ども時代にもちろん嫌なこともありましたし、自分の子育ても愛情は精一杯注いできたつもりですが、反省は山ほどあります。
しかし今回語られたのはそれとは次元が違う、もし小さい頃の自分やわが子が同じ目に遭うと想像したら耐えられないほどの体験の連続でした。
いえ、自分や家族でなくても、どこかで誰かがそんな目に遭っているのは耐えられないことで、もしその場に居合わせたなら何もかも忘れて止めに入ると思います。
でも、止めに入る人が周りにいなかったり、止めることもできない精神状態の人しかいなかったり、巧妙に隠れて被害を受けている子どもたちは、虐待にさらされ続けます。
登壇された皆さんは、この手紙を書き、会場で人前で読み上げるにはどんなにか勇気がいったのではないでしょうか。
それでも、少しでも自分と同じ思いをする子どもを減らしたいという願いを持って登壇されたのだと思います。
ご本人の声で聞くと「虐待をなくさなければ」と心から思えるはずなので、少しだけ時間を取ってぜひ聞いてみて下さい。
▼動画のアーカイブURLは以下から
https://love-all-children.blogspot.com/2021/11/in-20212021_30.html?m=1
2)今一生(こん いっしょう)さんの提案する「虐待防止策」
続いて、ずっと子どもの虐待解消のために活動を続けているフリーライターの今一生さんから、現状と問題点、解決に向けての提案を聞きました。
虐待の報告件数は増え続けていて(それも把握できた件数だけで、実際はもっと多いはず)、いっこうに減少しない…その理由の1つが、起こった虐待の対応には予算を使ってきたが、親に虐待させない仕組み作りに力を入れてこなかったためだということ。
もちろん虐待されている子どもの命を救うため、保護する施設は必要ですが、実際に通報後に保護された子は2割以下と少なく、しかも保護施設内での虐待事例も多数報告されていたり、成長後は受験などで不利になったり…と問題点もあり「施設さえ増やせば解決」というわけにはいかないのですね。
そこで、「そもそも家で虐待が起こらない」ようにするにはどうすればいいのかという防止策がいろいろな角度から提案されました。
子ども本人が虐待の定義と自分の権利を知る機会作りを義務化する
自分のされていることが虐待だと分からないままだと、子どもは「自分が悪いから」と思ったまま育ち、成長後も自信が持てずに人間関係やメンタルに悪影響を及ぼすおそれがあります。
学校で「なにが虐待なのか」を正しく知る機会を作り、親権停止などの法的措置を親に対して求める権利があることを知らせていくよう法で義務づけるべき、という提案です。
親自身も「子どもの目の前で夫婦ゲンカするのは虐待」などを知らない人もまだ多いと思います。親や祖父母世代、これから結婚出産する世代にも広く周知するとさらに効果的ですね。
親としての責任能力を見極め、高める制度を作る
親権者として子どもを安心安全の中で育てる責任能力があるかテストを行い、もし責任が果たせない状態であれば改善できる仕組みを作ってはどうかという提案です。
アルコール依存・メンタル疾患・障がい・貧困・育児放棄(ネグレクト)などが見られれば、親自身だけでなく、子どものために、親の治療や保護など適切なサポート・支援を行っていくという方法です。
経済的自立の方法を教え、支援する
虐待される生活から脱出するための経済的自立の方法を小学生から教えていくという提案です。
地域の青年商工会議所・ベンチャー企業が協力して起業塾などを行う方法や、虐待する親は「子どもをこのまま支配下に置きたい」という心理からアルバイトを許可しないケースがあるので法改正によって親の同意書なしでもバイトができる特例を認めていってはどうかという提案もなされました。
父子手帳を全国で義務化
母子手帳だけでなく、父子手帳を必ず発行して、「子どもの人権」「親権者の責任」「子ども虐待とはなにか」をしっかり理解してもらうという提案です。
私も以前から父子手帳は全員に必要だと思っているので(さらに産前産後や育休中にパパはどう動くべきか?という研修も必要だと思います)ぜひ実現してほしいですね。
SOSを出せる機会作り
小学生や中学生に、年に1度「親にされていやだったこと」を作文で書く時間を設けるという提案です。
参考として、書籍『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』を読めるように学校に置いておけば、子どもは「これは虐待なんだ」「自分が悪くて自分だけ苦しんでいるんじゃないんだ」と気付ける…という提案もありました。
24時間相談で虐待経験者が対応する
電話やLINE相談窓口には、公認心理士や子育てのプロが対応…というイメージがありますが、助けを求める子どもや「虐待してしまいそう」「虐待をやめたい」と悩む親にとっては、専門家や子育ての上手い人は敷居が高く感じられることも。
そこで、もっと安心共感できる相談相手として、元虐待経験者(サバイバー)や虐待をやめた親・子供に謝って和解できた親などの当事者を、きちんとした報酬で雇用してはどうかという提案です。
虐待に知見のある精神科医やカウンセラーを増やす
精神科や臨床心理士の課程で虐待が心理面に及ぼす影響はひととおり学びますが、そこに特化した専門家は少なく、当事者が大金を払ってカウンセリングを受けたにもかかわらず効果がない…というケースもあるとのこと。
虐待ケアの専門家を養成して当事者の話を聞く研修を義務づけたり、子どもや虐待経験者は無料または安い費用で受診できるよう、条例で予算を確保してはどうか…という提案もなされました。
3)意見交換会
最後に、参加者との質疑応答・意見交換会が行われました。参加者からは1時間にわたって意見や質問、取り組みが寄せられました。
質問の1例を紹介します。
Q:「当事者に虐待の話を聞く」という防止策がありますが、ご本人につらい体験を思い出させてしまうのではないでしょうか?
A:たしかに、戦争などで凄惨な体験をした人は、思い出したくないから当時のことを話さない人が多いといいます。
しかし、虐待の経験を手紙にしてくれた人たちが口々に言うのはこんなことなんです。
「はじめて、私の話を黙って聞いてもらえた」
「心の中に溜まっていたものを吐き出せてよかった」
これらは体験を思い出す負担よりもはるかに重要です。
どちらかというとダメージを受けるのは「聞く側」ではないでしょうか。子どもはその点、意外と柔軟に受け止めますので、学校などで当事者の話を聞く機会を設けるのはやはりメリットが大きいと考えます。
私たちにできること
講演の中で聞いた、日本小児科学会の「日本では1日に1人のペースで子どもが虐待で亡くなっている可能性がある」というデータは本当に重く感じられました。
今回のイベントで、いま必要だと感じたのは、これまで虐待をうけてきた人のケア、虐待にあっている子どもを救うこと、そして「子どもたちのために今から何ができるのか」です」。
紹介された虐待防止策のうち個人では実現が難しいものも多くありますが、自治体や政治家に「○○を実現して下さい」とメールや手紙で要望を送るのは誰にでもできます。
そしてもう1つ、私たちが誰でも今すぐできるのは「知ること」ではないでしょうか。
年末年始、ぜひ少しだけ時間を取って、イベントの様子や虐待経験者の手紙に耳を傾けてみて下さいね。
▼イベントの様子はこちらから(パートに分かれていますので、10~15分ずつでも視聴可能です)
▼love all the children tokyo 2021公式サイト