2023年春、ライター界はAIやChatGPTの話題でかなり大騒ぎです。
今回は私ではなく後輩ライターさんの話なのですが、ある日彼女は取引先から「うちでもChatGPTを使うことにしたから、あなたの報酬を半額にしてくれ」と言われたそうなんです。
いやいやいや。
これはかなり問題があると思い、公正取引委員会に実際に電話で問い合わせてみました。ライターや編集者の皆様にシェアしますので、よかったら参考にして下さいね。
はじめに・私のChatGPTとの関係
先に私の話をしますと、私はChatGPTの有料プランを利用していますが、執筆はまだまだ私のほうがはるかに良いものが書けるのでかわりに記事を書いてもらうことは一切なく、概要把握やリスト項目チェックなどに活用しています。
人間のアシスタントさんにも色々な業務をお願いしてはいるのですが、夜遅い時間に「今すぐ、○○業界の全体像について中学生でも分かる文章で概要を説明して」と頼むわけにもいかないし、Web検索したとしても、さまざまな粒度で書かれた記事から今の自分の理解度に合った記事を選別し、広告要素を排除しつつ概要をつかむのも結構な時間がかかります。
そこで、まずはChatGPTでざっくり概要や背景を頭に入れておき、(※ただしChatGPTはしれっと嘘をつくことがあるので要確認です)細かい疑問や正確な情報は書籍なり公式サイトなり取材なりで確認して、お客様と読者に自信を持って出せる文章に仕上げていくようにしています。
後輩ライターさんの体験談「AIでも書けるから、次から半額にして」
ところが、ある日後輩ライターのAさんからこんな相談をいただきました。
お客さんから「ChatGPTを取り入れたから申し訳ないけれど文字単価を今の半額に下げたい」と言われました…
まじか!
しかも話を聞いてみると、彼女の作業内容は何も変わらないというんですね。
もし、「これからは事前リサーチや見出し作りをChatGPTでやるので、あなたの作業量が以前の半分になります。だから半額にしてください」というのならまだ理屈は通ります。
しかし今回はそういうのではなく、
「AIは人間よりコストが安い→人間もコストを下げろ」
「いくら専門的な内容でも、コラムならAIでも書ける」
「他の人たちはあなたよりもっと安い値段に下げた」
という言い分だそう。
その発注元へのツッコミどころが多すぎて軽く頭痛がしつつ、彼女にはこんな風にアドバイスしました。
もし値下げを受け入れるとしても、何をAIに代替させるのかという正当な値下げ事由は確認しておく必要があります。本当にAIがコラムを書けるなら、人間への依頼を打ち切るはずなので「AIでもできる仕事なんだから…」という先方の言い分にも疑問が残ります。とはいえ、この感じではあまり予算も見込めない可能性が高いので、別の案件を探し始めましょう(泣)
その一方で、現在まだAIにできないこと(読者の気持ちを考えた言い回しや独自視点のおもしろさ、世の中に出回っていない商品サービスの強みやユーザーの声といった一次情報を取ってくることなど)をライターの自分が担うには、クライアント様のゴールや目的、そのために必要なプロセス、どの部分はAIで効率化できて何が人にしかできないのか…といった全体像を把握しておく必要があります。今後同じような話が出たら、そのあたりを最初にしっかり打ち合わせて握っておきましょう!
「ChatGPT使うから値下げして」←不当値下げ要求では?
相談のあと、「しかし…これ下請法違反じゃないの?」とすごく疑問に思ったので調べたところ、中小企業庁と公正取引委員会が公表しているリーフレットが見つかりました。
今回のケースは上記「要注意チェックポイント」のうち、1つめと3つめの
- 発注者の事情のみをもって価格の引き下げを要請していませんか
- 品質が異なる安価な海外製品を引き合いに、取引価格を引き下げていませんか
…に当てはまるのではないでしょうか。
今回、Aさんの仕事内容は今までと変わらないので、「発注者の事情のみ」といえますし、海外製品ではないにしてもChatGPTはまだまだ人とまったく同じようには書けないので、「品質が異なる安価な製品」といえるでしょう。
そこで、公正取引委員会の「下請法に関する相談窓口」に電話して確かめてみました。
0120-060-110(フリーダイヤル)
【受付時間】10:00〜17:00
(土日祝日・年末年始を除く。最寄りの担当窓口につながります。)
公正取引委員会への問い合わせ内容&回答
担当の方に「私自身ではなくフリーランスの後輩の話でも相談に乗ってもらえますか?」とたずねたところ、特に名前も特に聞かず、親切に色々と教えてもらえました。
以下はそのときの内容です。
今回のケース(ChatGPTを導入するからあなたの報酬を半額にしてくれ)は、「発注者が自社の予算単価・価格のみを基準として、通常支払われる対価に比べ著しく低い取引価格を不当に定めること」に該当し、下請法に違反するおそれがあります
通常の料金(1文字2円)と提示料金(1文字1円)の乖離(かいり)について、十分な協議と合理的な説明が必要ですが、それが足りない場合は「買いたたき」に相当する可能性があります
発注者が資本金1,000万円以上(※1)の法人であれば、下請法に関する相談窓口(0120-060-110)から違反の申告をすれば調査が入り、改善指導が行なわれる可能性があります
発注者が資本金1,000万円以下の法人または個人事業主などの場合は上記で調査依頼ができないため、個人で交渉するか、弁護士や「下請けかけこみ寺」などに相談してください
※1…便宜上1,000万円としていますが、正確には1,000万1円以上です
要するに、正式な調査で詳細を確認するまでは「買いたたき」とは言いきれないが、当てはまる可能性は高い……という話でした。
ただ調査や相談をすれば半額に下げられた単価が元に戻るかというと、残念ながら難しいケースが大半かと思います。
また半額どうこう以前に、黙ってChatGPTを導入し、「来月で契約を打ち切ります」と言われてしまうこともあるでしょう。
実際、英語圏では日本語よりもずっと簡単にAIが人間に近い文章を生成できるため、もっとシビアに契約解除や解雇の例が出ています。
ただ今回私が気になったのは、発注元が「ChatGPTがあなた以上に仕事ができるから」というのを理由にしつつ、契約は継続している点です。
本当にChatGPTが全部書けるなら、人間のライターへの発注を継続する必要はないはずです。
単純にAIに仕事を奪われるのと違い、AIを理由にした書いたたきであれば問題だと思ったため、気になって問い合わせてみた次第です。
まとめ:「ChatGPTを入れたから半額にして」と言われたら
「ChatGPT」を理由に急に値下げをいわれたら、無料でできる対処法としては以下のようになります。
とはいえ、このような値下げを持ちかけてくる発注元というのは、そもそも予算不足・リテラシー不足の可能性が高いといえます。
放置しておくと他のライターさんにも同じことが起こる可能性があるので報告や相談はぜひ行なってほしいですが、自分自身の次の選択としては、そのような相手との交渉に時間とエネルギーを費やすよりは少しでも早く適正価格で取引できる他のお客様を見つけることをおすすめします。
そしてお客様からのライティングの依頼や相談に対して、自分にしか出せない価値はなんだろう?と常に考え、独自の情報を取りに行き、自分の中から出てきた考察も加え、読者の心をつかみゴールにつながる文章を書き続けていくこと。
私自身も、当面できることといえばそれだけかなと思っています。