映画や小説で、「この秘密は生涯誰にも話さず、私が墓場まで持ってゆく」なんてセリフがありますよね。
私は、「誰にも言わない」と約束したことは話さない自信があります!
…いや、ありました。
あの日までは。
考え方が変わったあの日のできごと
それは、遠い親戚の一周忌法要に参列した時のことでした。
その時に参列していた一人の親戚の高齢女性。私はほとんど話したことがないのですが、ご主人はもう数年前に亡くなっていて、どうも最近、認知症の傾向が出てきた…という人々の話が聞こえてきました。
法事が終わると、その女性が、
「お父さんはどこ?」
と周りの人に聞くんです。
「もう亡くなったやろ」
とみんな優しく教えるのですが、
「嘘よ…」
「お父さん、またあの女のところに行ってるんやわ」
私たちが滞在していた数時間のあいだに、このやり取りは数回繰り返されました。
また、その後たまたま席が近くになった時にふと見ると、その女性は誰かのバッグが椅子に置いたままになっているのを見つけ、
「これ、誰の?誰のバッグかしら?」
と誰にともなく声をかけ始めました。
すると親戚の誰かが「それAさんのよ、置き忘れてるんじゃないから大丈夫よ」と教えると、とたんにバッグを放り出し、身体を縮めるようにして、
「私知らない、Aさんのバッグなんて知らないよ、Aさんに見つかったら叱られる、怖い怖い」
と怯え始めました。
(Aさんは亡くなったご主人の妹さん=小姑さんです)
私は、若い頃から今までに何があったのか全然知りませんが、そんな私にでも人間関係がほぼ想像できてしまったんです…。
平均寿命が伸び、不治の病が治るようになったら
昔は治らない病気が今より沢山あって、認知症になるより先にそれらの病気で命を落とす人が圧倒的に多かったのでしょう。
亡くなるまで頭はしゃんとしていたから、「秘密を墓場まで持っていく」ことが可能だった時代。
しかし今は逆に、体はまだ元気なのに脳が先に老化してしまう人が増えて、上の女性のように、人に知られたくない感情や他人の秘密すら、知らず知らず口にしてしまう危険性が急増しています。
じゃあどうしたらいい?
認知症のリスクが増えたことで、「自分さえ黙っていれば」「バレなければ真実になる」という考え方はもう通用しにくい時代。
じゃあいったい、どうしたらいいのでしょうか?
そう、認知症になっても秘密をもらさない方法なんてないんです。
だから、日々生きていく時に、「将来これ口に出してしまったらどうなるかな?」と自分に問いかけながら生きていくしかないんですよね…。
そう考えるとたぶん、生き方は自然に正直になってゆくと思います。
心の中で「こいつ不幸になればいいのに」と願いながら、心から気遣っているようなフリをして、ある時相手を騙して陥れ、ほくそ笑みながら知らんぷりをして生きてくとかね。
それを後年、認知症になって全部自分でバラしてしまったら?
「もう自分は何も分からないからどうでもいい」という考え方もあるかもしれませんが、認知症とはいえ、突然何もかも分からなくなるパターンは稀(まれ)です。
たいていは症状が出たり治まったりしながら進行していくので、正気の時に、「おばあちゃん、きのうあんなひどいこと言ってたけど本当?」と可愛い孫にでも言われたら…。
なので、例えば気に入らない相手がいても、陥れるよりは、改善を申し入れたり距離を置いたりと、比較的正直で自然な行動を取るようになるんじゃないかなと思います。
それだったら、将来「あたしゃあいつが大嫌いだったよ」と口にしても、周りも「そうだね、分かるよ」で終わってくれそうでしょ?
一番の関心事が、まっさきに行動に表れる
私はそんなに多くの認知症の方と接したことはまだありませんが、近所の方や友人の身内のお話を聞くとよく思うのが、「自分が重要だと思ってきたこと」にとてもこだわる方が多いということ。
考えてみれば当たり前のことなのですが。
例えば、町内のある女性は、どんな時でも玄関先をきれいにしておくのが信条だったようで、いつも落ち葉を掃き掃除されていました。
数年前から認知症の症状が出て、施設に入る直前には、夜中でもパジャマで玄関先のお掃除をされたり、一枚の葉っぱもないのにホウキでひたすら道を掃いていることもありました。
この方の場合は、最大の心配事が「お掃除」だからまだ良かったと思うんです。
もちろん、なんでも正直に言えばいいってもんじゃないし、人と違う趣味嗜好があったっていいんですよ。
でも、もし人に言えないようなことだった場合に「どうせ黙ってたらバレないんだから」と思っていたり、そのことにばかり心の中でコミットし続けていると、将来、まっさきに発表してしまう可能性大ですよ…っていう話です。
あと10~20年後には、政治家や機密保持が必要な職業に就いていた人が引退を迎えた後、施設などでだれかれ構わずしゃべってしまったり、SNSで発信してしまったり…という社会問題が起こってくるかもしれませんよね。
おわりに
生きていれば、人に言えない思いや秘密・嘘があるのは仕方ないこと。
でも、人生は100年時代。晩年に矛盾が出たり、恥ずかしい思いをしたりしなくて済むよう、日々できるだけ自然体で暮らしていきたいですね!